トランプ大統領が海外で製作された映画に100%の関税を課す方針を発表し、映画業界に衝撃が走っている。海外メディアはかつて“映画の聖地”だったハリウッドの実情を紹介。関税の効果に疑問を投げかける――。
ハリウッドサイン
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突然の関税発表、混乱に陥るハリウッド

アメリカ映画業界に激震が走った。ドナルド・トランプ大統領は5月5日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、海外で製作された映画に100%の関税を課す方針を打ち出した。

ハリウッド近郊に拠点を構えるロサンゼルス・タイムズ紙によると、トランプ氏は「アメリカの映画産業は急速に息絶えようとしている」と危機感を表明。「諸外国が様々な優遇措置で映画クリエイターやスタジオをアメリカから引き抜いている」と主張した。

唐突な発表に、米映画業界は困惑している。米ウォール・ストリート・ジャーナル米ワシントン・ポストによると、エンターテインメント業界の重役たちは、海外での収益が大半を占める大型映画ビジネスへの影響に懸念を抱いているという。米映画全体が世界からそっぽを向かれれば、ハリウッドにとってむしろ痛手だ。ロサンゼルス・タイムズ紙は、米映画はその収益の最大60%を海外での上映で賄っていると報じている。

米映画産業が国際市場に虐げられているかのようなトランプ氏の主張も疑問だ。ニューヨーク・タイムズ紙は、2023年の米映画産業データをもとに、輸出226億ドル(3兆8155億円)に対し輸入153億ドル(2兆1946億円)と、貿易黒字を達成していると指摘する。主要な海外市場すべてにおいて、輸出超過の状態だという。

トランプ氏「ハリウッドが息絶えようとしている」

もっとも、トランプ氏は米映画業界が「急速に息絶えようとしている」と表現したが、これは決して誇張ではない。米フォックス・ニュースによれば、ロサンゼルス郡の映画・録音業界の就労者数はパンデミック前より約20%少なく、約10万人にとどまっている。

同メディアが引用する米国労働統計局のデータによると、パンデミック初期と昨年のストライキ時を除けば、30年ぶりの低水準だ。10年前、カリフォルニア州の映画・録音産業が全米に占める割合は約40%の水準にあった。いまや30%未満にまで落ち込んでいる。

撮影現場も活気を失いつつある。ロサンゼルス・タイムズは非営利団体フィルムLAの調査を引用し、テレビ番組、映画、CMの製作が2024年第1四半期に前年同期比で22%減少したと伝えている。

世界的に見てもアメリカ映画業界の衰退は明らかだ。英BBCは、調査会社プロドプロ(ProdPro)のデータを引用し、2024年第2四半期のアメリカ内の制作数が2022年同期比で約40%減少したと報じている。世界全体でも同期間で20%の減少となった。