「百貨店の客=自社の客」という思い込み
取り組みのなかでも、特に力を入れたのはリブランディングだ。当時、近沢レース店の認知度は決して低くなかった。けれど、大半が「祖母の家にあった」「若い頃から母が使っている」など「かつて流行ったブランド」というイメージで、クオリティはあまり高くなかったのだ。
とはいえ、リブランディングのためにロゴを変えたり、大々的にCMを打ったりと、派手な宣伝活動は資金面から難しい。そこで、さまざまな客層に選んでもらえるようなアイテムを開発し、ラインアップ商品の割合を徐々に変えていった。さらに、百貨店以外の販路を模索すべく、オンラインショップを立ち上げることにした。
ところが、一部の社員からは
「百貨店のお客様は、こんな色味を好まないと思います」
「お客様がオンラインで商品を買うのは、少し難しいのでは?」
と苦言を呈された。
なぜなら、当時の主要な購入層は、70歳から80歳代の顧客だったからだ。
「長年の経験から『百貨店のお客様が自社のお客様だ』と、みんながインプットされちゃってたんですよね。だから、はじめは『シェアが大きいインテリアを堅調に守っていこう』という動きもあったんです。でも、私はずっと『ターゲット層を広げよう、商品の構成比を変えよう』と言い続けていて……。社員は面と向かっては言わないまでも、内心『うまくいくはずがない』と考えていた人も、きっといたでしょうね」
その後も王道のレースを取り揃えたり、「レース屋」らしくない商品の販売を思い切ってやめたりと、試行錯誤は続いた。このとき、期せずして売上を伸ばし始めたのが、前述のタオルハンカチだった。
「サザエさん」が幸運の女神に
2010年頃からタオルハンカチを定番品としてラインアップした結果、販売数が年々増えていった。懸念されていたオンラインショップでも、想定以上の売上を上げるように。すると、2011年からさまざまな企業から声がかかり、コラボレーション商品を手がけるようになった。
はじめは店名を刺繍するのみだったが、百貨店を中心に多くのオファーをもらうように。そのうち第二の転機が訪れた。国民的アニメ「サザエさん」の限定アイテムを手がけることになったのだ。
担当者から「『サザエさん』のレースを作れないか」と尋ねられた際、近澤社長は「やらせてください」と即答した。過去にキャラクターのレースをデザインしたことはなかったが、レースが多様なモチーフを表現していた過去を知っていたからこそ、ためらいはなかった。
「スケッチとサンプルを作って確認してもらったら、あっさりオッケーが出たんです。よかったなと一安心していたら、『こんなにすぐ承認が下りたのは、近澤さんだけですよ』と聞いて。驚くのと同時に、とても光栄なことだなと思いました」