1日4000枚以上の「ハンカチ」が売れる老舗レース店がある。横浜市の中心街にある近沢レース店は、120年以上の歴史を持つリネンストアだ。お中元・お歳暮の贈り物として百貨店を中心に人気を集めたが、2000年代から出店先の百貨店で集客が見込めなくなり、売上はピーク時から半減した。ジリ貧だった老舗レース店はなぜ息を吹き返したのか。5代目社長の近澤匡祐さんに、フリーライターの弓橋紗耶さんが取材した――。
新作ハンカチを求めて“3万人”が押し寄せる
タオルハンカチの新商品発売日。近沢レース店のホームページにアクセスすると、順番待ちを知らせる画面が表示された。そこには「整理番号:29371」「ご自身の前に並んでいる人数:14774」「待ち時間の目安:1時間以上」と記されている。
「ハンカチ欲しさに約3万人が殺到している……?」
信じられない気持ちで、画面に何度も目を走らせた。それから1時間後、やっと筆者がアクセスできるようになると、6品中5品がすでに売り切れていたのだった。
「たかがハンカチにどうしてそこまで」。そう思う人は多いだろう。しかし、同店の商品は「ただの」ハンカチではない。この日は新定番の「和レース」ハンカチのお披露目で、四辺を縁取るレースには「相撲取り」「お寿司」など、和のモチーフが形作られている。さらに、「どすこい日本」「鮪」など、遊び心を感じさせるメッセージもレースで表現されているのだ。
「引っかかりのあることをやらないと、面白くないでしょ」と語るのは、2024年に5代目社長に就任した、近澤匡祐さん。その目は言葉とは裏腹に、真剣そのものだった。
同社でこれまでに誕生したタオルハンカチのデザインは、約300種類。「おにぎり」「ビール」「将棋」など、どれもユニークで、ついじっくり眺めたくなるものばかりだ。有名アパレルブランドの「ユナイテッドアローズ」でも取り扱われている同商品は、年間150万枚が販売されている。単純計算すると、1日あたりの販売数はおよそ4110枚。つまり、21秒に1枚売れている計算だ。
しかし、レースのハンカチといえば、花柄や幾何学模様が定番だろう。創業124年の老舗レース店は、なぜこんなにもポップなデザインのタオルハンカチを生み出したのだろうか。